老いと花

還暦まであと1年半、日々の出来事や思い出を気ままに綴ります。

狐の嫁入り

 30歳になる直前だったと思う。ある時、同僚のホーム・パーティーに参加すると、ヨーロッパのある国から来日していた青年を紹介された。絵を画いているという。思わず(心の中で)口をあんぐりと開けてしまうほど美しい顔だちをしていた。
 その日から暫く経って、あれは東京の西部だったか、山の中で開かれたお祭りに彼の友人たちと一緒に行くことになった。日本人の恋人たちもいたと思う。夜も更け、参加者の多くは持参のテントで眠り始めたが、私たちは小さな朽ち果てた舞台のような場所を見つけそこにごろ寝することになった。1時間も経った頃だろうか、突然、目の前に大きな炎が現れた。すると彼と友人たちが一斉に炎に向かって走り出したので、一人取り残された私は恐ろしくもあり彼らを追いかけた。だが、炎の前に着いたと思ったその瞬間、それは跡形もなく消えてしまった。あれはなんだったんだろうね、と話しながら舞台に戻り、身体を横たえようとした時、今度はいくつかの人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。そして、それもこちらに近づきながら徐々に消えていった。
 私が世にいうところの超常現象にでくわしたのは、あれが最初で最後(これから出合うことはきっとないだろう)だ。後日、彼が日本人画家にこの事を話すと「それは狐の嫁入りというものです。」と教えられたという。私以外は全員、お酒を飲んでいたので、もしかする
と彼らの酔いが見せた幻に心の羽目をはずしていた私が飲み込まれたのかも知れない。