老いと花

還暦まであと1年半、日々の出来事や思い出を気ままに綴ります。

イノセント・ストーリーズ

 家の前の歩道で、時々学校帰りの子供たちとすれちがう。「こんにちは。」「その犬、可愛いですね。」「蜘蛛の巣、いりませんか?」などと話かけられる事もある。(返事に困る場合は、仕方なく無言のまま通り過ぎる)
 若い頃は子供が好きではなかったが、年を取るにつれてとても好ましい存在になったのはなぜだろう。彼らが無垢であることに、強く惹かれているのかもしれない。かつて日本で発禁処分になった「チャタレイ夫人の恋人」の中で、夫人が小鳥を掌にのせてすすり泣く場面がある。なぜ泣くのかと恋人に問われ「余りにも無垢だから。」と答えた。人の子供も、罪を犯そうにもまだ生まれてから数年しか経っていない。
 トルーマン・カポーティはその才能の豊かさゆえに「恐るべき子供たち」の一人と呼ばれていたが、無垢なまま大人になることはできなかったようだ。実際の殺人者を主人公にした「冷血」を書いていた時、親しい女性から「彼が死刑になったら、貴方は困ると思っているわね。だって、続きが書けなくなるもの。」と言われ衝撃を受けたという。貧しい環境で育った殺人者に自分を重ね支援さえしていたが、本心はとっくに見破られていた。「冷血」が発表される前に書かれた「イノセント・ストーリーズ」は、私にとって大切な物語だ。時々、手にとって、世界には確かに無垢は存在するという事を確かめている。