老いと花

還暦まであと1年半、日々の出来事や思い出を気ままに綴ります。

「泣いて良いよ。」

 


 子供の頃に事故に遭い、ある大学の付属病院にしばらくの間、入院していた。入院当初は毎日のように包帯を取り換える必要があったのだが、これがとてつもなく痛かった。傷口が包帯にひっついてしまい、包帯を剥がそうとすると傷口も一緒に引っ張られてしまったので。私は毎日、大声で泣いた。だがある時、泣くのを我慢してみようと考えた。ベッドの上で読んだ少女漫画の占い覧に「さそり座の女の子は我慢強い。」と書いてあったからだ。そしてある日、診療室での治療が始まり、天井をにらみつけながら激烈な痛みにこらえた。暫くして医師が穏やかに一言、言った。「泣いて良いよ。」その途端、私は全身を震わせて大泣きした。
 皮肉にもその後、私はとても我慢強い子供になりそのまま大人になった。そして、滅多に泣かなくなった私がそれでもこらえ切れずに泣こうとすると、側にいる人たちは必ずこう言うのだった。「泣かないで。悲しくなるから。」私は7歳のあの日以来、まだ泣くことを我慢している。